Birdsinc

『ユリイカ 特集 ダイアン・アーバス 聖なるフリークス』1993年 10月号(青土社)

2020-05-24||鳥原 学

この号の3年前、1990年にはパトリシア・ボズワースの書いた評伝『炎のごとく―写真家ダイアンアーバス』が日本でも出版されている。同書を機に、何度目かのアーバスブームがやってきていたと思う、

この特集の白眉は、よく知られるように奈良一高さんの「ダイアンと僕(イッコー)」。1971年、ニューヨーク滞在中の奈良原さんが受講した、アーバスのワークショップの回想録だ。その記述が詳細なのは、クラスにレコーダーを持ち込んでその過程を記録していたから。彼女の人柄とか写真に対する考えとかが確かにうかがえる。カメラを買っても手に馴染むまでは「自分のものになったとは思えず」対価を払わなかったとか、そういったエピソードも彼女の人柄をうかがわせて面白い。

しかし、このワークショップが終わったすぐ後、アーバスは自ら命を絶っている。じつは本稿の読みどころは、この後半にこそあるのだと思う。そしてラスト、アーバスに重なるように、もうひりの偉大な写真人の死が語られる。

死者は生者を走らすものなのだ。奈良原さんが亡くなって読むと、あらためてその思いを強くする。それにしても、なんと文章の上手い人なのだろう。奈良原さんと森山さんは、こちらの才能でも別格ですね。