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仕事で戸惑った話

2020-01-28||鳥原 学

私はとても受け身な人間で、自分から仕事を売り込みに行くことはとても少ない。フリーになった時にそれを試みたが、あまりうまくいかず、無駄な手間ばかりが増えたのでやめてしまった。その代りに、たいていの仕事は断らずに受けることにした。それでなんとか今日までやってきた。
ただ不思議なのは、仕事の依頼をいただくのは光栄なのだが、対価や報酬の額、その締めと支払いを明示されることはいまだに少ないことだ。こちらとしては後でいろいろと困ることがあるし、オファーされるほうもトラブルを避けられる。逆の立場で考えれば、分かっていただけると思うのだが……。

こんなことを呟いたら、元編集者の方から、それが写真業界の習慣でありいろいろな歴史の結果そうなっているのだとお叱りをいただいた。それを理解しないわけではないが、20年前と今では時代が違っている。ことに雑誌関係はずっと右下がりで、ある雑誌で久しぶりに書いたら、原稿料が下がっていて驚いたこともある。それを上げて欲しいというのは無理なんだろうが、せめて前もっての提示は欲しかった。期待値と結果が違うことが困るし、信頼関係を損ねるからだ。

信頼関係を損ねるといえば、もう少し困ったケースもある。それは契約書に関することだ。ある出版社と長く仕事をしていて、向こうが全社的な電子化をにらんで契約書を新たに交わしてほしいという。何より、支払いの処理もそれで簡便になるからということだった。付き合いのある担当者だったので、その説明だけを聞いて判を押した。

しかし、あとで読むとそれは「著作権譲渡契約」になっていて肝を潰した。驚いたことに、担当者もその中味をよく読んでいなかったようだった。結局、著作権は当方にある旨の覚書を社長名でもらうことになってケリをつけたのだが。出版業界のなあなあは怖いなと思った。というか、思っている。こういうことをしていると、若い書き手とかも育つまい。

あと、年末になると写真賞のノミネートの用紙が送られてくるのだが、さんざん迷った末に結局書いて送らないことが多い。もちろん、申し訳ないなと思いながら。なにしろ、東京だけでも、極めて多くの写真展や写真集、またパフォーマンスが一年のうちに行われている。それをほぼ見たわけでもない私には荷が重いのですよ。

ある賞の事務局は、その態度がご立腹だったのだろう。あなたは写真文化に貢献しないのか、する気があるなら早く書いて送ってほしい、という意味の郵便物が追ってやってきた。この言い分は、まったく正論だとは思う。

ただ、こちらの考えとかスタンスとかを聞かないで、いきなりノミネートの用紙を送ってきて、写真文化への貢献を迫られても困惑してしまう。ささやかだが、こっちはこちらのやり様で写真文化への貢献はやっているつもりでいたりするしね。

協力しろというなら、電話の一本もかけてきて、こちらも話もちゃんと聞いてからにしてほしいものです。いずれにしても、無礼な奴だと思われているんだろうけども。