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【最近の写真集など ⑬】

地方から大都市に出てきた人のなかには、望郷の思いに加えて、なにかある種の罪悪感とか後ろめたさを抱えてる者も多い。その感情は年月が経つほど重くなる。『家の風』という写真集はその重たさを語っているように思う。前半部の写真は対象との距離が近いが、後ろに行くほどカメラは引いていくからだ。そのそのもどかしい機微が良く表現されていて、魅力的に思えた。
本書は、写真学校の卒業生から送られてきた、彼の初めての写真集だ。在学中から鹿児島県南九州市の実家を撮っていた。それから10年、実家の祖母が亡くなり、親族には子供が生まれている。一方の彼は東京で仲間と同人ギャラリーを開いたり、地道に個展を重ねたりしていた。といって目を見張るような結果が出たわけではなく、郷里と彼の距離はどんどん開いていった。それを受け止めることが、ずっと彼に科されていたのだと思う。
時間がかかることには時間をかけるべきなのだ。そうしないと育てられない大切なものが、その人にとって大切なものがある。10年間、著者はよく辛抱したなと思う。『家の風』なかなかなものです。
牛垣嶺『家の風』
定価:4,180円(税込)

発行:蒼穹舎

 

 

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