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写真評論家・平木収の講演録「写真はどこへ行くのか」1994 2/⑩

2026-07-19||鳥原 学

平木収さん講演録の第2回目。フランスの写真祭の話で、ところどころから話が飛ぶ。じつはそこが平木さんの、話の持って行き方の上手いところだった。

平木さんが撮影されたスライドフィルムを投影しながらの解説だった。


「写真はどこへ行くのか」第2回 ── 写真祭のはなし

最初に写真祭に出会ったのはパリです。写真月間の第二回目っていうーのに行きました。その後、ヒューストンの写真祭に参加する側で、リサーチに行ったことがあります。ただ会期中には僕は行かなかったのですが、仲間の金子隆一だとか、そういった人達が参加したんですね。わたしは会場調整係で、交渉だけやって帰って来たんですけど。その後写真月間は今回が八回目なんですけど、八回目で僕は五回くらいいってます。アルルの写真祭っていうのは毎年あるんですけど、これは二回くらいですけど行きました。

で、今年あって、今日ご紹介するのは、あまり知られてない写真祭なんですけど、カオールって町がフランスの西の南の方にあります。そこは人口が1万人くらいの本当にささやかな町です。そのささやかな町に写真祭があるってのを知ったのは実は今年なんです。去年、一頃に僕はこの町に行ったことがあって、今年が二回目で、去年行ってるんですね。

去年行ったときは知らなかったんです。で何で行ったかというと、そこはお酒がおいしいんです。あのカオールっていうのは、かなり酒好きの人なら知っていると思うんだけど、木村尚三郎さんていう歴史学者が「カオールの酒壷」って本を書いてて、それを読んでたら行きたくなったんです。赤ワインがいいっていうんでね、行く前に日本で店に行って飲んだんです。

それで、私事ですけど、子供が生まれたときにね、女の子だったんですけど、どうしてもあわてて名前をつけなきゃならないっていうんで、かおるちゃんって名前にしました。それにはもう一つ理由があって、岩合光昭っていう動物写真家がいますけれども、彼とそのとき一緒に仕事をしていてかおると言う名前はいいですよっていうし、それで五月に生まれたんですけど、カオール(かおる)という名前にしちゃったんです。で、それを口実に名前の元となった町を見に行くっていうんでね。

その後、聞かなかったんですけど、今年の春フランスのちっちゃな町から館長が来ましてね、彼女とお話ししたら、そこにはいい写真祭がある、っていう。それで六月の末にあるんですけど、ちょうどアルルの写真祭と重なる形であるんです。それは仕事の関係で難しいのでこっちだけ行きました。

飛行機で行っても、何で行っても不便なんです。パリから六時間汽車に乗って行きました。ただ、汽車に乗ってる間、いろいろと考え事をしているわけですね。で酒を飲みながらいくわけです。

フランスだけではないけれど、ヨーロッパはそうなんですけど、子供が大事にされてるってのがあって、僕らの世代の人間にとってはうらやましかったり、考えさせられたりする。汽車の中なんですけど、遊園地があるわけですよ。長距離電車には結構ついてます。それで六時間とか一〇時間とか、人によっては乗らなきゃならないんですね。非常にゆとりと思いやりの発想ですね。なかには大人もああして寝てるのがいますけど。

「カオールの春」と強力なスポンサー

この催し「カオールの春」って催しなんです。カオールって町はね、狭い路地がいっぱいありましてね、中世の町の狭さを生かして写真祭っていうか、展覧会をしましょうというものなんです。企画をしているのは、レジス・デュランというパリに住んでいる批評家です。批評家がパリでディレクションをやりまして、出品交渉だとか、参加者の決定をして、で、あれは何キロぐらい離れてるのかなぁ。六〇〇キロ程離れてるんですかね。パリと六〇〇キロ程離れている小さな町で実施すると、もちろん町もお金を出しているし、市の財政だけでは絶対に賄えない。それで強力なスポンサーがついています。

あの「カルテイエ」です。カルティエ財団がスポンサーとしてついておりまして、あとCFFって銀行もついている。この銀行は非常に写真に対する理解がいいっていうか、パリの店ではいろんな写真展をやったりもしますし、うらやましい限りの、日本のどっかの銀行とは大分違いますね。で、カルティエはカルティエ財団っていう別の財団を作ってて、アートのサポートをやったりしてるんです。

カルティエの会長の婦人、ペランさんが非常にそういうメセナ活動に熱心で、この人がお金を出していて、またうまくお金を出すだけじゃなくてもらうものもらってるんです。ペランさんはカオールの町の文化支援の功績を讃えられて、今年シュバリエ賞という文化功労賞をもらってます。だからギブアンドテイクでしっかり見返りをうけてます。しかし勲章をあげるんだったら、金を出してくれたらどんどん勲章を渡して、日本の場合勲章をあげて断られてますけど。税制が違うから日本の場合はメセナ活動は難しいらしいんですけど。ただやはり企業文化の社会還元というのがあまりにも乏しいなあというのは感じてます。

これが市役所なんですね。この程度のちっちゃな町なんです。町が狭くてちっちゃいんです。パトカーがみんなプジョーの205とかね、それくらいなんですよ。つまり、日本のミニパトみたいなのが、あたり前のパトカーなんです。ただ歴史は非常に古くて、アルルの方なんですけど、アルルはだいたいローマ時代からあるんで、ここはもう少し新しいといっても、十一、十二世紀からだから、十三、四世紀に栄えたんですね。そういう町なんです。一つ重要なことは、写真祭は地域の催しなんですけど、やっぱり非常に市民は町に対する誇りをもっている。そこで文化の催しものをする。つまり、今まで写真とは何の緑もなかったけれど、文化的なことで人を招じ入れるということで、喜びと誇りをもっているというのは確かです。

250人のボランティアが支える誇り

その証拠に展覧会なんかの会場には、必ずボランティアの人がいて協力体制というか、入場料はほとんどないんですけど、カタログを売ったり、ノベルティーのTシャツを売ったり、さわらないように監視するとか、むやみに写真を撮ったりしないように監視するとか、そういう仕事をのべ、二百五十人のボランティアがやっている。ボランティアの人達は、なんていうか、参加することが誇りなんですね。ボランティアの人達は参加すると写真を撮ってもらえるんです。写真家はパトリック・オリヴィエだったかな、その写真が次の年に展示されるんですよ。ただ、名前は入ってない。面白いのは、その部屋は真っ暗なんです。入り口で懐中電灯貸してくれるんです。一人ずつ照らして見て歩く。ちょっと奇をてらった方法なんですけど、とにかく一人一人の人格を尊重していて、だけど俺が俺がというわけではなくて、みんなボランティアですから、公平な立場で参加しましたってんで、それこそペランさんていうお金を出している人から、懐中電灯貸し係をしている人まで、あまねく同一条件で展示してある。そういうふうにしてね、町の歴史と町の誇りや、あと、文化ってものに対して大ざっぱだけど、逆におおらかに美徳を感じていて、それを実践してるって感じがします。

これはカオールのワインなんですけどね、これが撮るのが目的ですが、実はこの後ろに塔があってこれが橋なんですよ。中世のラバントレっていう要塞兼橋なんです。川に石作りの橋がかかっていて、その上が要塞なんです。そういうものが残ってまして、今日も車が行き交ってるんですね。その前にワインの組合のショールームがあって、普通だったらあっちを撮るんですけど、僕はこっちを撮っちゃったんですけど、こういう町です。

写真を通じた「出会いの場」アルルへ

さて時間配分の問題があるんで、アルルって町も古い町です。アルルって町も普段はそれほど人口も多くないし、むしろカオールよりも少ないかもしれません。近所に大きな町が二つあります。マルセイユとニーム。だから普段そんなに活気のある町じゃない。まあ夏は保養地であることはたしかなんですけども。そこにルシアン・クレルグという写真家がおりまして、彼らが発想して写真祭、正確には、ルコントレフォトグラフィエ・アルテス(Les Rencontres de la photographie d'Arles)というんですが、出会いの場っていうか、そういうニュアンスなんです。写真というものを出会いの場としていこうというか、それで今日お話しする本題にいよいよ入って行くんですけど。


以下、第3回に続く。