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06.20.2024 『デジタルカメラマガジン』7月号から連載「21世紀写真史」の連載が始まりました。

2024-06-30|鳥原 学

『デジタルカメラマガジン』7月号から連載「21世紀写真史」の連載が始まりました。

21世紀が始まってまもなく四半世紀、この間の変化を「映像文化のエコシステム」がどう変わったかということをテーマに綴っていきます。キーワードは写真の「量」です。
連載第1回の冒頭は以下のように始まります。

 

〇1兆9300億枚の写真

6月3日まで東京の国立新美術館で開催していた現代美術展「遠距離現在」で見た、エヴァン・ロスの「あなたが生まれてから」という作品のことから書き始めたい。これは広めの展示室いっぱいにすき間なく、せいぜいA4サイズほどの写真や画像が、整然と張り付けられたインスタレーションだった。その膨大な画像のなかには家族や旅行の写真もあれば、絵画やイラスト、それに広告なども含まれていた。それら一枚一枚にも、その並びにも特別な意図が反映されているとは思えなかったが、なぜか不思議な統一感がある。

そこで作品解説を読むと、これらは作家のPCの“キャッシュ”、本来は一次的に保存された後に削除されるはずの画像データをプリントしたものだと書かれている。そしてタイトルの「あなた」とは2016年に生まれた次女のことで、つまりこれらの写真や画像は、以降の7年間に作家が検索したり編集したりしたイメージの全てということになる。作家の意図はそれらを集めて展示することで、多面性と一貫性をもった、自らの自画像を描き出すことにあったのだ。私にはその意図が良く伝わってきたが、それ以上に、この手法は2024年の写真とそれをめぐる環境そのものを表しているように思えた。

 

21世紀が始まってあと半年で4半世紀に達する。この間の写真をめぐる変化は“凄まじい”の一言に尽きる。21世紀初頭にインターネットという地球を覆う情報インフラが構築されてから、すべてが変わった。

まずフィルムからデジタルに移行するとともに、出版メディアが力を失った。代わって台頭したのがGoogleやFacebookといったプラットフォーム企業だった。また2004年に最初の写真共有サイトであるFlickrが誕生し、その後を追うようにInstagramやTikTokといった気軽に扱えるSNSが相次いでリリースされ、億単位のアクティブユーザーを獲得するようになった。それを促したのはiPhoneに象徴される全面液晶画面のスマートフォンであり、ウェアラブルカメラやドローンなど小型化した撮像センサーの特性を生かした新種の登場だ。一方でスチルカメラは高性能・高画質化して、静止画と動画の境界が消えていった。さらにプロ用一眼カメラの主流がミラーレスに移るのだが、それは僅か10年前には考えもできなかったことだ。なかでも決定的に重要なのは以上がもたらした結果であり、それは撮影枚数の極大化だと思える。

以下のグラフを見て欲しい。これは2019年の『国土交通白書』に掲載されている「世界全体で撮影された写真の枚数の推移」だが、2000年を境に世界全体の写真撮影がほとんど垂直的に上昇しているのが分かる。1970年の100億枚から30年をかけて8.6倍に増えたものが、2000年からの17年間で15倍へと激増しているのだ。

また、アメリカの調査団体Photutorial(フォチュートリアル)は2024年の撮影枚数を1兆9300億枚と予測している。その場合世界人口を82億人として考えれば、平均で一人当たり約230枚にもなる。同団体はその数は今後も伸び続け、2030年には30兆枚に至ると指摘している。

そもそも撮影量の増加は、写真の社会的機能や表現の領域を広げていく最も大きな力ととなる。テクノロジーの進化と汎用化を強く促して、映像文化のフェーズを変えていくのだ。21世紀の四半世紀とは、その変化がかつてないほど急激に進んだ時代であることを、これらの数字が裏付けている。

(続きは本誌で!)